2016年1月15日(金)
2016『浅川巧日記』を読み解く(14)(15)
『浅川巧日記』を読み解く
一月十四日
午前中事務所で仕事をした。
午頃から長谷川町の日本基督教会へ行った。柳、赤羽両兄とも来て居て会場の準備も万端出来てゐた。柳さんの「プレークの絵画」と題する講演は二時頃から一時間半ばかりあつた。背思ひ思ひに画を見て帰つて行つた。画はブレークの画の複製版画二十余点で何れも随分いゝものだつた。来た人は五十人ばかり。夜は柳、金沢の諸兄を誘つて赤羽君も一緒にソルランタン〔牛肉、脛骨などを煮込んだスープ〕を食べに行つた。ソルランタンは牛の頭や内臓のスープを飯にかけたものだ。安価で滋養価値の多いよき食物だと思ふ。それから柳さんと.二人町を歩いて貞洞で別れて兄の家へ寄つた。母と嫂を対手に十二時頃まで戯談を言つて嫂の里へ送る牛肉の荷を作つてそれを発送するために預つて持つて帰つた。
あんなに準備した「プレークの絵画」と題する講演会は2時~3時半まで。ブレークの複製画は20余点。来場者は50人余。ブレークも知らない大半の朝鮮人、在住日本人に一生懸命知らせたい。良いものは知らせたいという思いが強い。この時、柳宗悦は33歳。巧は31歳、赤羽王郎は1886年4月生れで36歳独身。
嫂のたか代の実家は現山梨県韮崎市穂坂町三沢で家督を継いだ弟の善衛(よしもり)当てで、 山梨の田舎ではその頃、牛肉など手に入りにくい。きっと喜ばれたであろう。
一月十五日
托された荷は春植に頼んで新村駅から送り出して貰つた。第一回にした版画展覧会の画を整理した。朝から細い雪が十一時頃まで降つた。
会は昨日よりよかつた。柳さんも興奮して詩を読んでゐる様だつた。ブレークの詩は美しく鋭い。人は六十余人集つた。午後森永君の家に行つて彼の父の蒐集した朝鮮の器物を見た。特にいゝものもないが僕等の持たないものが二、三点あった。夜また柳さんに会つて晩くまで話した。
会が済んで少し気ぬけがした。熱心な青年に会はなかつたことと朝鮮の友の少なかつたことは淋しい。京城の市民達が藝術に対する欲望のまだ少ない証拠だ。
「ブレークの絵画」の講演会は2日に渡って有ったことがわかる。今日のは絵画ではなく、ブレークの詩であろうか。
ブレークとその詩・絵画を調べてみた。 http://blake.hix05.com/index.htmlより
ブレークとは、ウィリアム・ブレイク William Blake(1757-1827) は、イギリスロマンティシズムの初期を代表する詩人にして画家である。彼の業績は詩と絵画を別々にしては考えられない。その詩の殆どは、挿絵を伴った絵本の形で出版されたし、また、詩も絵画もブレイクという芸術家が抱いていた世界観を、それぞれの形で表現したものといえるからだ。
ウィリアム・ブレイクの持っている特質は、深い宗教的感情と、幻想的な資質である。
イギリスロマンティシズムを代表する詩人にして画家である。イギリスのロマンティシズムは19世紀前半に起こった芸術の潮流であり、詩と絵画を通じてイギリスの歴史に残る偉大な作家を生み出した。ブレイクはその中でももっとも偉大な芸術家とされ、今日においても、詩と絵画を通じて高い評価を受けている。
ブレイクは正規の学校教育を受けず、主に母親によって教育された。用いられた教材は主に聖書だったという。だから、聖書を題材にしたものが主要である。
ウィリアム・ブレイクの第一詩集「無垢の歌」は、実質的には「羊飼い」の歌から始まる。羊飼いは羊飼いの仕事が楽しいといって、自分の仕事に満足している。なぜなら羊とともに暮らすのは素敵なことだし、羊も自分を頼ってくれる。自分も羊も神様に感謝しなければならない。
羊飼い The Shepherd
羊飼いの仕事は楽しい仕事
朝から夕まで歩きまわって
一日中羊を追いかける
感謝の言葉をささやきながら
子羊が可愛い声をあげると
母羊がやさしく答えてあげる
羊飼のおかげで羊たちは平和
羊飼がいつもそばにいるから
ウィリアム・ブレイクの第一詩集「無垢の歌」は、実質的には「羊飼い」の歌から始まる。羊飼いは羊飼いの仕事が楽しいといって、自分の仕事に満足している。なぜなら羊とともに暮らすのは素敵なことだし、羊も自分を頼ってくれる。自分も羊も神様に感謝しなければならない。
羊のほうも、羊飼いがいるおかげで、狼に襲われる心配もなく、のんびりと草を食べていられる。やはり神様に感謝しなければならない。
なにやら人間の親子、母と子の幸せな関係を物語っているようだ。無垢な子どもと、子どもを導く母親の愛。この詩はそんな愛と喜びのテーマを、うららかに歌ったものだ。
生まれた喜び Infant Joy
“僕にはまだ名前がない
生まれてまだ二日なんだ“
どんな名前がいいかしら
“ぼくはとっても幸せだから
喜びの名がいいな“
いつまでも喜びが続きますように!
可愛い喜び
愛らしい喜びはまだ二日
あなたを喜びと呼びましょう
あなたは微笑み
私は歌う
いつまでも喜びがつづきますように!
一月十四日
午前中事務所で仕事をした。
午頃から長谷川町の日本基督教会へ行った。柳、赤羽両兄とも来て居て会場の準備も万端出来てゐた。柳さんの「プレークの絵画」と題する講演は二時頃から一時間半ばかりあつた。背思ひ思ひに画を見て帰つて行つた。画はブレークの画の複製版画二十余点で何れも随分いゝものだつた。来た人は五十人ばかり。夜は柳、金沢の諸兄を誘つて赤羽君も一緒にソルランタン〔牛肉、脛骨などを煮込んだスープ〕を食べに行つた。ソルランタンは牛の頭や内臓のスープを飯にかけたものだ。安価で滋養価値の多いよき食物だと思ふ。それから柳さんと.二人町を歩いて貞洞で別れて兄の家へ寄つた。母と嫂を対手に十二時頃まで戯談を言つて嫂の里へ送る牛肉の荷を作つてそれを発送するために預つて持つて帰つた。
あんなに準備した「プレークの絵画」と題する講演会は2時~3時半まで。ブレークの複製画は20余点。来場者は50人余。ブレークも知らない大半の朝鮮人、在住日本人に一生懸命知らせたい。良いものは知らせたいという思いが強い。この時、柳宗悦は33歳。巧は31歳、赤羽王郎は1886年4月生れで36歳独身。
嫂のたか代の実家は現山梨県韮崎市穂坂町三沢で家督を継いだ弟の善衛(よしもり)当てで、 山梨の田舎ではその頃、牛肉など手に入りにくい。きっと喜ばれたであろう。
一月十五日
托された荷は春植に頼んで新村駅から送り出して貰つた。第一回にした版画展覧会の画を整理した。朝から細い雪が十一時頃まで降つた。
会は昨日よりよかつた。柳さんも興奮して詩を読んでゐる様だつた。ブレークの詩は美しく鋭い。人は六十余人集つた。午後森永君の家に行つて彼の父の蒐集した朝鮮の器物を見た。特にいゝものもないが僕等の持たないものが二、三点あった。夜また柳さんに会つて晩くまで話した。
会が済んで少し気ぬけがした。熱心な青年に会はなかつたことと朝鮮の友の少なかつたことは淋しい。京城の市民達が藝術に対する欲望のまだ少ない証拠だ。
「ブレークの絵画」の講演会は2日に渡って有ったことがわかる。今日のは絵画ではなく、ブレークの詩であろうか。
ブレークとその詩・絵画を調べてみた。 http://blake.hix05.com/index.htmlより
ブレークとは、ウィリアム・ブレイク William Blake(1757-1827) は、イギリスロマンティシズムの初期を代表する詩人にして画家である。彼の業績は詩と絵画を別々にしては考えられない。その詩の殆どは、挿絵を伴った絵本の形で出版されたし、また、詩も絵画もブレイクという芸術家が抱いていた世界観を、それぞれの形で表現したものといえるからだ。
ウィリアム・ブレイクの持っている特質は、深い宗教的感情と、幻想的な資質である。
イギリスロマンティシズムを代表する詩人にして画家である。イギリスのロマンティシズムは19世紀前半に起こった芸術の潮流であり、詩と絵画を通じてイギリスの歴史に残る偉大な作家を生み出した。ブレイクはその中でももっとも偉大な芸術家とされ、今日においても、詩と絵画を通じて高い評価を受けている。
ブレイクは正規の学校教育を受けず、主に母親によって教育された。用いられた教材は主に聖書だったという。だから、聖書を題材にしたものが主要である。
ウィリアム・ブレイクの第一詩集「無垢の歌」は、実質的には「羊飼い」の歌から始まる。羊飼いは羊飼いの仕事が楽しいといって、自分の仕事に満足している。なぜなら羊とともに暮らすのは素敵なことだし、羊も自分を頼ってくれる。自分も羊も神様に感謝しなければならない。
羊飼い The Shepherd
羊飼いの仕事は楽しい仕事
朝から夕まで歩きまわって
一日中羊を追いかける
感謝の言葉をささやきながら
子羊が可愛い声をあげると
母羊がやさしく答えてあげる
羊飼のおかげで羊たちは平和
羊飼がいつもそばにいるから
ウィリアム・ブレイクの第一詩集「無垢の歌」は、実質的には「羊飼い」の歌から始まる。羊飼いは羊飼いの仕事が楽しいといって、自分の仕事に満足している。なぜなら羊とともに暮らすのは素敵なことだし、羊も自分を頼ってくれる。自分も羊も神様に感謝しなければならない。
羊のほうも、羊飼いがいるおかげで、狼に襲われる心配もなく、のんびりと草を食べていられる。やはり神様に感謝しなければならない。
なにやら人間の親子、母と子の幸せな関係を物語っているようだ。無垢な子どもと、子どもを導く母親の愛。この詩はそんな愛と喜びのテーマを、うららかに歌ったものだ。
生まれた喜び Infant Joy
“僕にはまだ名前がない
生まれてまだ二日なんだ“
どんな名前がいいかしら
“ぼくはとっても幸せだから
喜びの名がいいな“
いつまでも喜びが続きますように!
可愛い喜び
愛らしい喜びはまだ二日
あなたを喜びと呼びましょう
あなたは微笑み
私は歌う
いつまでも喜びがつづきますように!